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SpirE-Journal 2014 Q1

2014年インドネシア総選挙 ビジネス動向はどう変化するか

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2014年インドネシア総選挙 ビジネス動向はどう変化するか

1998年以来、インドネシアは東南アジアきっての民主大国としてダイナミックな発展を遂げてきた 。この5年間に世界を覆った金融危機も比較的無難に乗り切ってきた同国だが、インフラ整備の遅れや法規制のハードルなど、経済発展の勢いを削ぐ問題も残されている 。今年行われる議会選挙と大統領選挙は、インドネシア経済やこの国でビジネスを展開する企業にどのようなインパクトを与えるのであろうか。

インドネシアは、2030年までに経済力で世界7位に躍進する可能性を持っているとされる。増加する若年層や豊富な天然資源に加え、消費者層の着実な拡大が経済成長を下支えすると見られている 。

2014年総選挙は、この国にとって1955年以来の重要な節目となるとの声もある。何が焦点になっているのであろうか。

経済成長

選挙には、ビジネスや景気への追い風となって通常の予測を上回る経済成長を呼び起こす力がある。日本でも、2012年12月の総選挙で安倍晋三総裁の自民党が勝利したことで、経済成長への期待が大きく高まった。

MINTと呼ばれる次世代成長国(メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコ)の中で、インドネシアは100万ドル以上の純資産(自宅不動産を除く)を保有する個人の数がこの1年で22%も増加するなど、トップに位置している 。

2014年総選挙は、この成長傾向をさらに加速するきっかけになると期待されている。2014年4月の議会選挙は6,000人の候補者によって争われ、下院(DPR)と上院(DPD)の全議席が改選される。少なくとも10億ドルの選挙資金が動くと予想され、インドネシア経済に与える消費効果は大きい 。さらに、選挙の効果は金融市場にも及ぶ可能性がある。選挙を通じた消費と報道の活性化により、インドネシアの株価指数が年末までに20%上昇するという予測もある 。

選挙を通じた消費と報道の活性化により、インドネシアの株価指数が年末までに20%も上昇するという予測もある。

社会の変化

今回の総選挙の有権者数は国内全体で1億8,600万人、その3分の1が17歳から30歳の年齢層にあたっている。投票率も、2009年の70%を上回ると見られている 。さらにインドネシアでは、ネットユーザーの9割がソーシャルメディアに日常的にアクセスしている(米国の場合、2013年の時点で7割にとどまっている)。インターネットを使いこなす若い国民層を中心に有権者の顔ぶれが変化する中、政界の動向にもこれに応じた変化が予想される 。

2012年のジャカルタ特別州知事選挙でも、Twitter、Facebook、YouTubeといったソーシャルメディアを積極的に活用したジョコ・ウィドド候補が多くの支持を獲得しており、インドネシアにおいてもITやソーシャルメディアが政治に重要な役割を果たす時代が到来したといえる 。2008年の選挙でインターネットを活用した米国のオバマ大統領が早い段階から多くの小額寄付者を集めることに成功したように、これからの選挙運動はインターネットを利用した動員や寄付集めなどがますます一般的になっていくと考えられる。

選挙は社会体制にも影響を及ぼす。インドネシアは民主国家となってからの歴史が比較的浅く、1998年以後の選挙ではもっぱら社会民主主義寄りの方向に舵を切っていると言われる。1997年から1998年のアジア金融危機を受けて開始された社会保障政策は、貧困対策に一定の成果を上げてきた。政府は国民の貧困率を2012年9月の11.7%という水準から2014年には8~10%にまで引き下げるという目標を掲げている。インドネシアの社会保障政策は、リソースの提供、必須の医療・教育サービスをはじめとして、堅実な投資を通じた生計の改善を呼びかけるものなど、多岐にわたっている。

今回の選挙を前に、これらの制度の運用と成果確認の基盤としてICカードを使ったシステムの導入も政府内で検討されている 。これらの政策により、金融機関や通信会社も「経済的困窮から脱しつつある消費者層」をマーケティング戦略の重要なターゲットと位置づけるなど、同国のビジネスも大きく変化している。

体制の改革

インドネシアでは現在、中国・インドなどとも並んで社会体制の浄化を訴える運動が盛り上がりを見せている。民主的な選挙制度も、政界関係者たちが「不正反対」のイメージ強化に乗り出す契機となることで浄化への動きに一役買っていることは間違いない。

投票率は2004年の84%から2009年の70.9%に低下したが、その原因は、国会・地方議会の両方に残る不正行為にあると言われている。2007年から2013年の間に、不正行為で摘発を受けた議員は73人に上るが、その90%以上が2014年の選挙に再選をかけて立候補している。

こうした状況にも、変化の兆しが生まれている。インドネシア政府が2002年に設置した不正撲滅委員会(KPK)は、最近、ミス・インドネシアのエルヴィラ・デヴィナミラを起用した公報キャンペーンを開始した。「正直者を選ぼう」と題するこのキャンペーンは、有権者に公正な選挙への意識を広げて投票権の正しい行使を呼びかけることを目的にしている。

政治腐敗防止とビジネス投資の間には、はっきりした相関が認められる。不正や汚職の減少には、ビジネス投資を促し、起業とイノベーションの原動力となる効果が期待されている。

ビジネスへのインパクト

今回の選挙によって、インドネシアのビジネス動向にも変化が予想される。

既存ビジネス

インドネシア・ルピアの対ドル相場が弱含みとなっていることにより、国内ビジネスはやや減速している。今後も、国の財政赤字と企業の対外債務返済に伴うドルの需要増に伴って、ルピア安の傾向はさらに高まると予想されている。2013年には輸出が18ヶ月連続減少を記録したことで、投資家の不安はさらに高まった 。

その一方、消費者心理はインフレや不透明な選挙見通しに影響されることなく良好な水準に保たれている。2014年2月に行われた調査でも、今後6ヶ月間の景気・求人動向や個人所得について「よくなる」とする回答が過半数を占めた 。

投資

世界的な需要の伸び悩みとルピア安で投資意欲も抑えられており、投資家の間では選挙結果が出るまで様子見という姿勢が主流になっているようである。加えて、インフラ整備の立ち遅れによる物流コストの高さが、製造セクターを中心とする競争力低下につながっている。

政府はこうした状況を受けて、2013年12月から外資規制の緩和に乗り出した。これにより、官民パートナーシップで建設された発電所には外国企業の100%出資も認められるようになった。

インドネシアが直面する課題

今回の総選挙は経済成長に大きな弾みとなることが期待されているが、選挙後に政府が取り組まなければならない課題について理解することも重要である。

汚職

KPKを中心とする不正防止の取り組みは続いているが、前途には困難も予想される。この10年間続いた政府上層の不正を調査・摘発する努力は100%の有罪判決率につながったとKPKは述べている 。しかし、国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが発表した2013年の腐敗認識指数(CPI)で、インドネシアは対象177カ国中114位という低いランキングに甘んじた 。問題の抜本的で構造的な改善には、なお時間が必要と思われる。

鉱業規制

新たな規制の導入で、鉱業分野に投資する外国企業の操業コストが増加する恐れが指摘されている。株式の過半数を保有する外国企業に操業開始から10年以内の出資率引き下げを義務付けるルールや、ニッケル、金、スズなどの鉱物金属資源65種類を対象として未加工品の輸出に20%を課税するルールが導入された 。

インドネシア政府はこれについて、「国内鉱業生産の取り締まり強化によって産業の付加価値を高めることが目的」と説明している。また、原石の輸出を禁止することで国内での加工を増やしたい政府は、この措置を国有の製造セクター振興に結び付けたい意向と思われる。

しかしインドネシア国内企業の間からは、「処理プラントを自社だけで建設・運営するのは不可能」という声も上がっており、これまでに約30,000人の鉱山労働者が職を失った 。

今後の展開

インドネシアの有権者数は1億8,600万人で、3分の1が17歳から30歳の年齢層にあたる。今回初めて投票権を得る国民も2,100万人に上る。若年層の票は、今回行われる選挙の結果に大きな影響を及ぼす可能性がある 。また、オンラインユーザーの増加を背景に、多くの有権者とつながることのできるソーシャルメディアが選挙動向を塗り替える可能性もある。

インドネシアの有権者数は1億8,600万人で、3分の1が17歳から30歳の年齢層にあたる。今回初めて投票権を得る国民も2,100万人に上る。

経済面では、インドネシア・ルピアの対ドル相場低迷や鉱業分野の先行きが不透明なことなど、さまざまな課題も残されている。今回選ばれる政権には、政治改革に取り組むことも求められている。「これから就任する大統領とその政権は、自分たちの理想とする政府ではなく、現実に存在する官僚主義と折り合いをつけていかなければならない」と語ったのは、米国のドナルド・ラムズフェルド元国務長官であるが、この言葉は現在のインドネシアにも当てはまる。しかし、インドネシアの次期政権に引き継がれる国内経済が比較的健全な状態にあることも忘れてはならない。成長率と景気実感は比較的良好で、適切なインフレ率を保つマクロ経済政策も功を奏している。

本稿執筆時点で、ジャカルタ戦略国際研究センターは、ジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド知事を大統領候補に指名している闘争民主党が3分の1の票を集める可能性を予測している 。これは、ウィドド氏を大統領府に送り議会での安定多数を獲得するのに十分ともいえる得票率である。このような展開は、インドネシアと国内ビジネスにどのような意味を持つのであろうか。「ジョコウィ」の通称で知られるウィドド氏は、政治腐敗に厳しく、大胆な都市計画や成果主義の行政を展開している人物である。スラカルタ市長からジャカルタ特別州知事を歴任したこれまでのキャリアで氏が発揮してきた手腕が、国政レベルでどこまで通用するかを疑問視する声もあるが、政権を率いることになれば、行政改革を推進し、中小企業支援に一層力を入れるとともに、インフラ投資の促進にも積極的に取り組むことが予想される。氏のカリスマ的な魅力に動かされて国民の愛国意識が盛り上がることも考えられる。

結果の如何にかかわらず、2014年の総選挙は、インドネシアが経済を一定の成長軌道に乗せることに成功し、政治面でも民主主義が力を得て、国としての方向性を現実的で興味深い選択肢として提示できるようになったことを示して

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