SPIRE SIGN IN Register

SpirE-Journal 2013 Q4

ASEAN経済共同体2015 チャンスは本物 過剰な期待は禁物

Reader's Ratings:

ASEAN経済共同体2015

2003年、ASEAN諸国の首脳陣は、2020年までにASEAN政治安全保障共同体、ASEAN社会文化共同体、ASEAN経済共同体(AEC)の3つの柱からなるASEAN共同体の成立を目指すことで合意した。その後、AECの開始時期は2015年に早められた。AECは、この地域における物資・サービス・投資・熟練労働者の移動を自由化するとともに、資本移動に関する規制も緩和するという構想である。この意欲的な構想は、本当に実現するのだろうか。また、2015年という期日は守られるのだろうか。

AEC 2015は、ASEANに加盟する10カ国(タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、カンボジア、ブルネイ)が部分的な経済同盟を結ぶことで、新時代の経済協力を可能にするという構想である。

AECの主要目標として掲げられているのは、次の4点である 。

単一の市場と生産基地;
競争力のある経済地域;
(地域に欠かせない貿易を前提とする)公平な経済発展
グローバル経済への統合

 

 

2013_Q4_1_Economic_Comunity

 

限界を抱える非ASEAN諸国

最近、ASEAN以外の国々では成長傾向に若干翳りが見え始めており、多国籍企業にとってASEANの相対的魅力が高まっている。

中国

操業コストの上昇が多くの企業に影響を及ぼしている。都市部の製造セクターでは人件費が2003年から2010年までの間に年平均で約17%上昇し 、2003年に1,534ドルだった従業員1人あたりの人件費は2010年に4,579ドルになった。台湾企業の間では、ITEQ(エレクトロニクス)やジャイアント・マニュファクチャリング(自転車)など、これまでコストの低さから中国に製造拠点を移していたところ が自国生産に戻る傾向も出てきている。

これに加えて、さまざまな地政学的問題や知財問題によって、現在中国に投資している企業や投資を検討している企業がその選択を再考する動きも見られる。企業の間でコスト上昇に次いで懸念されている問題は、現地企業との熾烈な競争であるとする調査もあり、中国政府が国内企業を公的融資や事業免許・認可、税制などで優遇し、地代も外資系企業より安価に抑えているといった実態が指摘されている 。

インド

12億という人口や操業コストが比較的低いといった利点があるにもかかわらず、インドはいまひとつ直接投資先として高く評価されるに至っていない。投資のブレーキになっている主な要因は、インフラ整備の遅れと政情不安である。

道路、港湾、空港、電力などのインフラが未発達なことは積年の問題とされている。さらに、これらのインフラを整備するプロジェクトも、過剰な規制や用地確保の難しさによって大部分が立ち遅れている。官民のパートナーシップによるインフラ関連プロジェクトのうち、予定通りの工期で実施されているものはわずか25%にとどまり 、インフラ整備に道を開く政治改革への期待も空振りに終わっている。

汚職の問題や、2012年に打ち出されてまもなく解除された綿花禁輸措置に象徴される不安定な政策も、外国資本にとってさらなる不安材料となっている 。

ブラジル

ブラジルでもインフラの不備は慢性的な問題だが、それ以上に深刻なのは、この国の経済がコモディティ輸出に大きく依存していることである。豊富な天然資源はブラジルの競争力の源泉となってきたが、より付加価値の高い製造業にシフトしていくためには強力な政治的意向と政策の見直しが求められる 。 

ASEANの可能性は?

ASEAN全体の市場規模は2.3兆円、総人口は6億1,600万人、2012年の実質GDP成長率は平均5.4%、人口1人あたりのGDPは3,745ドルと推定される 。これらはグローバル企業に対して強力なアピール材料である。

他地域の成長神話に翳りが見られる中、ASEANの今後への期待は上昇傾向にある。良好なファンダメンタルズと中期展望に基づいて、多くのASEAN加盟国が急激とはいえないまでも健全な成長を見せている。

AECの本格始動を前に、今後は直接投資先としてのASEAN加盟10カ国の魅力が相対的に上昇することも考えられる。

インドネシア

ASEANきっての大国インドネシアは、経済規模で世界16位、人口で世界4位(2億4,700万人)にランクしている。国内経済は多様化しており、過去10年間は低インフレの成長が続いている。OECD諸国やBRICsに比べ、この10年間の経済成長は安定している 。

現在インドネシアには約5,500万人の熟練労働者が存在する。比較的年齢が若く都市化の傾向を強めている人口動態により、現在4,500万人の消費層(中流層に相当)は2020年までに4,000万人、2030年までにさらに5,000万人増加して、1億3,500万人になると予測されている。このような大幅増加によって、国内消費による経済成長効果は今後ますます拡大すると見込まれており、メダン、バンドン、スラバヤなどジャカルタ以外の都市圏でも同様の動きが見られつつある。ASEAN最大の経済力を誇るインドネシアは、今後ASEANにおける貿易や直接投資でも大きな位置を占めることになると予想される。

タイ、フィリピン

力強い経済回復を見せているタイとフィリピンは、投資先としてのASEAN地域をさらに魅力的なものにしている。フィリピンでは、2010年から2011年にかけて四半期ベースの成長が鈍化したものの、その後は回復し、2013年第1四半期には7.8%という記録的な急成長を達成した 。

タイでは2011年に大規模な洪水被害があったものの、その後の回復は早かった。タイにおける2012年の名目GDP成長率は6.5%で、2013年には実質GDP成長率は4.4%となった 。公共投資の遅れや中国経済の減速の影響があったにもかかわらず、これだけの成長を持続していることは注目に値する 。

特筆すべき点は、タイ国内の政治抗争・政治不安による経済成長への影響がほとんど見られないことである。これは、タイ経済のファンダメンタルズが健全に保たれていることを示唆している。

Of particular interest is the fact that Thailand’s economic growth has not been derailed by the nation’s extremely divisive and unruly politics.

ミャンマー

ASEANで、あるいは世界で、いまもっともエキサイティングな国といえるのが、世界で唯一の新規市場ミャンマーである。EUによる一般特恵関税制度の再適用に伴って政策の見直しが行われ、海外の金融機関が資産凍結を相次いで解除したことで民間セクターへの資金流入に道が開かれたことから、2013会計年度の成長率は6.5%と見込まれている 。ミャンマー政府は国内インフラの近代化も公的な目標に挙げており、海外企業の協力を積極的に受け入れる姿勢である。

AEC 2015の投資メリット

AECの目標の一つだったASEAN加盟国間での交易にかかる関税の引き下げは、交渉が難航するコメなどの一部品目を除いておおむね実現した。これは大きな前進といえる。非関税障壁の撤廃、人材・資本移動の自由化、サービス貿易の自由化といった分野の進展は比較的遅いが、2014年から2015年にかけて加速することも考えられる。

物品貿易自由化の成果はすでに出てきており、2011年にはASEAN諸国を合わせた物品貿易の25%が域内取引であった。市場開放で先行するシンガポール、マレーシア、タイの3国は域内貿易取引高でも他をリードしている。ベトナム、カンボジア、ブルネイ、ラオスの各国もGDPに占める貿易の割合が大きく拡大して100%に近づきつつある。残る3つの国(インドネシア、フィリピン、ミャンマー)はGDPに占める貿易の割合がこれより低いが、インドネシアの経済規模などに照らすなら、今後期待できる潜在的な域内貿易規模がそれだけ大きいともいえる 。

 

AEC - ASEAN automotive industry

AEC 2015の潜在的メリットは、ASEAN諸国に複数の生産拠点を持つ産業の動向から読み取ることができる。日系企業に代表される自動車産業は、その好例といえるだろう。上は、日本を中心とする一般的な自動車製造ネットワークを図示したものである。このASEANネットワークでは、タイがメインの完成車組み立て拠点、インドネシア・マレーシア・フィリピンの各国が部品とコンポーネントの製造拠点を担っている。AECの本格始動により、このような域内連携はさらに増えることが見込まれる。さらに、図のモデルにさまざまな変化も予想される。インドネシアの大規模な国内市場に注目する製造業者は、生産拠点の一部をインドネシアに移すことが考えられる。

AECのもう一つのメリットは、ASEANを単一の大きな市場としてポジショニングできることにある。IMF によれば、地域経済の動向に末端の消費者需要が及ぼす影響力は強まる傾向にある。今後のASEAN統合においても、消費が重要な鍵を握ると見られているが、とりわけインドネシア、タイ、フィリピンの中流層が消費の牽引役となっていくことが予想される。

日本が注目するASEAN

日本貿易振興機構(JETRO)の調べによると、2013年1月から6月までの日本からASEANへの直接投資額は55.4%増の102.9億ドルに上っている。同期間における中国への直接投資額が31.1%減の49.3億ドルにとどまったのとは対照的な結果である 。この数字からは、日本の政財界エリートの間で中国投資の一部を他に移そうとする組織的な動きが見て取れる。背景には、南シナ海における領土問題や2011年に突然実施されたレアアース禁輸措置などの影響も推察される。

日本と一部ASEAN加盟国の間にも領土問題は存在しているが、日本の投資家にとってASEANは依然として有力な生産拠点候補である。レアアース輸出では中国が現在も主導的な地位にあるが 、最近マレーシアにオーストラリアのライナス社がレアアース精錬工場を建設したことで、ASEANがレアアース生産でも中国に対抗できる可能性が示された。

日本の投資家は、ASEANを研究開発活動や物流のグローバルな拠点としても有力視している。中でもシンガポールは、世界銀行が2012年に発表した国際物流効率性指標 で1位(マレーシアは29位、タイは38位)にランクされているうえ、研究開発分野でも高いスキルを持つ人材が豊富なことで注目される。

ASEANとの関わりを重視する日本の方針は、2013年5月の安倍首相によるミャンマー訪問と、総額20億ドルの対日債務解消、それに新たな円借款供与にも表れている 。日本はその見返りとして、ミャンマー市場における日本企業、とりわけ経済特区として開発が進むティラワ港への進出を図る企業への優遇を取り付けたい意向である。

Japanese direct investment in ASEAN from January 2013 to June 2013 increased by 55.4% to USD10.29 billion, while direct investment in China decreased by 31.1% to USD4.93 billion in the same period.
米国もASEAN投資を強化

ASEANの可能性に大きな期待を寄せているのは日本だけではない。米国商工会議所が、ASEANで操業する米国企業幹部475人を対象に行った2014年ASEANビジネス展望調査 によると、「最近2年間で貿易や投資の規模が拡大した」という回答は全体の79%に上っている。また、全体の91%が「今後5年で貿易・投資の水準はさらに増加する」と見ている。

AEC 2015に関する設問では、77%の企業が「ASEAN統合はこの地域における自社ビジネスに重要なプラスとなる」と回答した。さらに全体の半数強が、物資・サービスの貿易や投資に対する障壁撤廃など、AEC 2015による変化を見越した戦略を準備していると答えている 。

AEC 2015への期待は、日米両国の経済界で非常に高まっている。ASEANはこの期待に十分答えることができるのだろうか。

Expectations of AEC 2015 are running high among corporate America and corporate Japan.
AEC 2015の進捗状況

域内貿易は順調に拡大しており、ASEAN加盟国間の貿易のシェアは1990年の17%から2011年には25%にまで拡大している。ASEAN域内貿易の87.7%を、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール(34.4%)の4カ国が占めている 。

ASEANが諸外国との間に多数の貿易自由化協定を結んだことや域内物品にかかる関税障壁が撤廃されたことなど、著しい進展が見られた領域がある一方で、課題も多く残されている。

遅れが目立っている領域としては、非関税障壁の撤廃と、サービスならびに投資の自由化の2点が挙げられる。国内産業の保護を求める圧力は依然として強く、投資ルールの透明化や統一化もほとんど実現していない。

関税撤廃の分野では、共通効果特恵関税(CEPT)計画を通じて適用品目リスト(IL)、暫定除外品目(TEL)、センシティブ品目(SL)、一般除外品目(GEL)が定められ、数回に及ぶ改定を経て、ILにかかる関税は2010年1月に全廃された。ASEAN全体の関税の99%に相当するこの措置によって、平均関税率は0.9%に下がった。しかし、SLに含まれる品目、とりわけコメと砂糖の関税引き下げは一部ASEAN諸国の間で国家食料安全保障に対する懸念が強いことから、依然として難航している 。

各国間で法制度のすり合わせが進んでいないこともAEC実現の障害となっている。経済発展のペースや言語の相違も、AECが目標として掲げる単一の経済圏作りに向けた足取りを鈍らせる要素となるであろう。

域内貿易は順調に拡大しており、ASEAN加盟国間の貿易のシェアは1990年の17%から2011年には25%にまで拡大している。ASEAN域内貿易の87.7%を、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール(34.4%)の4カ国が占めている 。

ASEANが諸外国との間に多数の貿易自由化協定を結んだことや域内物品にかかる関税障壁が撤廃されたことなど、著しい進展が見られた領域がある一方で、課題も多く残されている。

遅れが目立っている領域としては、非関税障壁の撤廃と、サービスならびに投資の自由化の2点が挙げられる。国内産業の保護を求める圧力は依然として強く、投資ルールの透明化や統一化もほとんど実現していない。

関税撤廃の分野では、共通効果特恵関税(CEPT)計画を通じて適用品目リスト(IL)、暫定除外品目(TEL)、センシティブ品目(SL)、一般除外品目(GEL)が定められ、数回に及ぶ改定を経て、ILにかかる関税は2010年1月に全廃された。ASEAN全体の関税の99%に相当するこの措置によって、平均関税率は0.9%に下がった。しかし、SLに含まれる品目、とりわけコメと砂糖の関税引き下げは一部ASEAN諸国の間で国家食料安全保障に対する懸念が強いことから、依然として難航している 。

各国間で法制度のすり合わせが進んでいないこともAEC実現の障害となっている。経済発展のペースや言語の相違も、AECが目標として掲げる単一の経済圏作りに向けた足取りを鈍らせる要素となるであろう。

AEC 2015はASEANを強くするか

ASEANは欧州連合(EU)と違い、過去の歴史の中で地域連合を一切経験していない。ASEAN諸国には、欧州にとってのローマ帝国に相当する統治・法・言語・宗教の統一時代がない。

ASEANの協力関係のルーツは、1950年にこの地域で起こった反コミュニズム運動にある。この動きはその後、東南アジア条約機構(SEATO)の発足につながった。1990年代に入ってからの経済協力を各国に促したのは、中国からの競争圧力である。

現実的に考えるなら、ASEANの統合にはさまざまな困難が予想される。中国の発展と、世界貿易・海外直接投資に占めるシェアの拡大を受け、ASEAN加盟各国は海外投資や観光を中心とする地域全体のシェア拡大を図ってきた。しかし、地域全体での密接な協力関係を助ける文化的・歴史的背景は何もないのが実情である。

海外直接投資の獲得競争は、シンガポール、タイ、マレーシアの間で盛んになっている。AEC 2015を控えた現在も、海外投資獲得や観光の分野でASEAN全体が協力する体制はほとんどできていない。ASEAN本部の主導による経済の方向付けを望む声も多いものの、加盟各国政府の間では、ASEAN本部への権限移譲・拡大を通じて欧州委員会のような主導的役割を与えることに消極的な見方が支配的だ。

さらに、ASEAN諸国の国内には、AEC 2015による次のような悪影響を懸念する政治的ロビー活動も行われている。

地域内競争の激化による収益率低下;
賃金水準の高い国にコストの低い良質な労働力が流入することで非熟練労働者が阻害される恐れ
過度な資金流入に伴うリスク

2020年までに目標とされた貿易・投資エリアの統一が実現するかどうかは、各国ごとの特色ある貿易品目の確立やASEAN域内でのスムーズな政治的協力ができるかなど、さまざまな条件にかかっている。

ASEAN共同体へのモチベーションとともに、加盟各国が中国との間でどのような経済関係を築けるかもASEANの今後を決定する重要な要因である。加盟各国のいずれかが中国との間に強力なパートナーシップを育てることに成功すれば、ASEANとして協力するメリットは小さくなる。それを抜きにしても、各国の経済が着実に発展していけば、地域として一つになることへの必然性はかえって小さくなる。

つまり、経済共同体作りが成功するか否かは、それぞれの加盟国の経済不安と相当程度まで関係するということになる。

AECが2015年までにスタートすることは確実である。しかし、その効果が見えてくるのは2015年よりも後のことであり、成否を分ける数多くの要因がこの先どうなっていくのかは予見が難しい。国際企業にとって、結論は明白だ。AECはいずれ現実のものとなる。だが2015年という時期はASEAN経済統合化のゴールではなく、始まりの終わりにすぎないことを認識すべきである。 

The ASEAN countries were never united under a common system of government, law, language and religion as was the case with the Roman Empire in Europe.
Back to Top

Back to Home
BTBTBTBTBTBT