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SpirE-Journal 2013 Q3

エスノグラフィーブランドに活用される人類学

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エスノグラフィーブランドに活用される人類学

顧客の満たされていない需要を特定する為の市場調査のテクニックとして活用されているエスノグラフィーが、全世界のビジネスから注目を集めている。エスノグラフィーの起源は、人々の行動と社会を没入観察調査する人類学にある。マーケティング分野において、エスノグラフィーは、自己報告に頼る市場調査テクニックのギャップを埋めるものとして利用されている。エスノグラフィー調査の需要の高まりはどこからきているのだろうか? どのようにエスノグラフィーをブランドに活用できるのだろうか?

数十年前、著名な食料品ブランドのHeinzが売上増加策として、価格を下げた際に、売上が記録的に低迷した。そこで、主力商品のボトル入りケチャップを復活させる新たなマーケティング案を模索するため、同社の新マーケティングチームが消費者の自宅を訪問することに した。

そして、通常の生活環境にいる消費者を調査した結果から得られた内容をもとに、プラスチック製ケチェップボトル が誕生した。その結果、3か月 で純利益が17.2%上昇し、変更したボトルはHeinzケチャップの新たなアイコンとなった。これは市場調査としてのエスノグラフィーにおける、初期の大きな成功例として結論付けられている。

エスノグラフィーとは何か?

エスノグラフィーとは、自然な状態のままの人々を調査員が観察し、そのような状況に置かれた人々と調査員が話をする定性調査のテクニックである。またエスノグラフィーは学術研究のデータ収集方法として、社会科学で広く使われている方法である。草創期のエスノグラフィーは特定の社会へ赴き、1~2年をその社会の人々と一緒に過ごしたり、コミュニティーの近くで過ごしながら住民や文化について研究する、人類学者によって実践された。

今日のエスノグラフィーは、世界中の企業で導入されている市場調査テクニックとして確立されている。過去数十年に渡り、顧客の満たされていない需要を特定するエスノグラフィーの商業的価値を、企業は目の当たりにしてきた。

例えば、パーソナルケアのコングロマリット、キムベリー・クラークは、2歳になる子供のおむつが取れない場合、親がとても恥ずかしく思っているということを、エスノグラフィーのフィールド調査で明らかにした 。この調査結果により、同社は1989年下着型のおむつHuggiesを開発し、マーケットシェアを1995年の32.6% から1996年の39.7%へと飛躍的に伸ばした。

イノベーションの源泉とは別に、企業は新たな市場機会を特定する為、エスノグラフィーを活用することも可能である。半導体チップメーカーのインテルは、1995年以前は商品を商業用の法人顧客のみに提供していた。その後、同社はエスノグラフィー調査により、家庭用商品の潜在市場があることを発見した。エスノグラフィーがビジネスに有益であることに気付いたことにより、インテルは、人類学者を雇用し、自社でエスノグラフィー調査能力を発展させた。

エスノグラフィーは従来の市場調査と違うのか?

サーベイやフォーカスグループに頼る従来型の市場調査と違い、エスノグラフィー調査は、その複雑な実行方法と3つの主要な特徴により市場調査と異なる。

調査結果

エスノグラフィー調査の結果は、従来の市場調査結果と比べ、定性的なものが多い。 また従来の市場調査プロジェクトの範囲は、通常、より狭く定義される。顧客はどのようなデータを求めていて、そのデータがどのような形で出来上がるのかを明白に理解することができる。

しかし、エスノグラフィー調査の場合、結果は顧客の要求に集中した結果となる。エスノグラフィーでは、顧客は事前に調査からどのような結果が集められるのか、見当がつかない。このような性質上、調査で集められる情報は、通常、とても定性的で予想しにくいものとなる。

調査のデザイン

エスノグラフィー調査は従来の市場調査に比べ、調査デザインが構造化されていない。ほとんどの市場調査プロジェクトは、程度の差はあるものの、構造化された質問に基づく、特定の成果物が必要となる。しかし、エスノグラフィー調査では、一定の調査範囲や、成果物はない。調査デザインの構造や調査結果は、調査員の経験や専門知識によるところが大きい。

加えて、通常エスノグラフィー調査に使われる調査手法は、とても柔軟性の高いものである。調査員は回答者を観察し、非公式のインタビューを行い、くだけた会話を持ち、回答者の自然な行動を控え目な程度にビデオ収録し、これらの手法を組み合わせながら、回答者からの情報収集を行う。調査員は、目標とする調査結果を得るために、相応しい調査手法を組み合わせて使用する。

エスノグラフィー調査には、 回答者の観察、非公式のインタビュー、くだけた会話、簡単な回答者のビデオ収録が含まれる

調査の深さ

エスノグラフィー調査では、サーベイやフォーカスグループなど、従来の市場調査では得られない顧客にとって有益な結果を発見することが出来る。サーベイやフォーカスグループでは、回答者が本当に考えていることや、感じていることを言わない可能性が常にある。回答者は気づいていないかもしれないが、潜在意識が働いたり、リラックスしたり、習慣により思っていることを発言出来ていない場合がある。このような状況はフォーカスグループでは特に明らかで、回答者が自分の意見を述べることに対してプレッシャーを感じ、その場の流れに従ってしまう、または、ほかの意見の繰り返しを避けて意見を述べたりする。一方、エスノグラフィー調査では、調査員が回答者の通常生活を観察することで、彼らの意見と行動の間の食い違いを特定出来る為、このような問題は最小化される。

加えて、消費者は特定の状況に置かれた際、自分が何を求めるかが不明確で、無意識に行っている行動について情報提供することは難しい。例えば、自宅訪問を行うエスノグラフィー調査で、消費者は、シャンプーボトルを逆さまに置き、微量に残った中身を取りだしていることがわかった 。消費者は、このような無意識の行動については、自分自身で気づいていない場合が多く、そういった情報に関してはフォーカスグループの議論や、インタビューでは語られることが少ない。しかしエスノグラフィー調査では、従来の市場調査では得られないこのような重要な結果が明らかにされることがある。

自宅訪問のエスノグラフィー 調査で、消費者はシャンプーボトルを逆さまに置き、微量に 残った中身を取りだしていたことがわかった。
エスノグラフィーはどのようにブランドに利益をもたらすのか?

エスノグラフィーの活用が、消費者動向を特定することに導いた、いくつかの事例を示そう。

アイコン・ヘルス・アンド・フィットネスのトレードミル

アイコン・ヘルス・アンド・フィットネスはアメリカ・ユタ州に本社を置く、世界最大のフィットネスマシンのメーカーである。アイコン・ヘルス・アンド・フィットネスは非常に競争の激しい、トレードミル市場のマーケットシェア拡大を狙い、消費者を理解する為にエスノグラフィー調査を行った。

このエスノグラフィー調査は、消費者の自宅およびフィットネスジムで行われた。トレードミル利用者はウォーターボトル、タオル、鍵、携帯電話、本と、実に様々な私物をトレードミル利用の際に持ってきていることを、調査員は発見した。利用者はまずマガジンラックを探しに行き、トレードミルに雑誌を収納できるように、そのラックを調整していた。そして利用者はワークアウトのプログラムを調整する際には、マシンがマガジンラックによって妨げられているので、何度もマガジンラックを調整しなおさなければならなかった。

この鋭い観察の結果をもとに、マガジンラックが中央に取り付けられ、コントロールやディスプレイが側面にあるトレードミルの操作盤が提案された。現在の標準モデルであるこのシンプルなデザインは、当時、どのワークアウトマシンにも採用されていなかったため、このマシンは、フィットネスマシンを使う消費者の間で非常に人気となった。調査員によって導かれたこの行動観察により、商品デザインの革新が成し遂げられた。

フィッシャー・プライスの子供用電子学習商品

フィッシャー・プライスはアメリカの赤ちゃん・子供向けおもちゃメーカーである。同社は地元の幼稚園の子供たちが、どのようにおもちゃで遊ぶのかをビデオに収録することで、電子学習商品の開発を目指した。

エスノグラフィー調査で得られた結果から、フィッシャー・プライスはJitterbugと呼ばれる、走る、飛び跳ねる、片足跳びをする等、子供たちに様々なアウトドアタスクを与える電子学習商品をデザインした。このおもちゃには、子供たちにアルファベット、数、色を教える機能もある。このおもちゃは、野外に持ち出して遊ぶことが出来るなど、好きなように遊べるので、子供たちの間で非常に人気の商品となった。

このケースは、エスノグラフィー調査が、従来の市場調査テクニックでは捉えきれない、子供たちに関する調査結果を賢く引き出せることを立証した。同様に、エスノグラフィー調査は高齢者や健康に問題のある人や、サーベイ、フォーカスグループでは情報が十分に得られない人から、調査結果を導き出せることもわかっている。

エスノグラフィーはB2Bビジネスに活用できるのか?

エスノグラフィー調査は、無意識の行動や習慣によって動く消費者マーケッティングにのみ活用できるという誤解があるが、実は、エスノグラフィー調査は、法人顧客の需要をよりよく理解するためのB2Bビジネスにも活用できる。

例えば、機械の法人販売をしている企業にとって、どのように機械が顧客に使われているか、満たされていない需要はどこにあるのかを見極める際に、エスノグラフィー調査は有効である。また、ITサービスやソフトウェアを提供している企業にとっても、法人顧客がどのようにソフトウェアを利用しているのかを理解し、継続的に法人顧客向けサービス改善機会を見出すために、エスノグラフィー調査員による観察は効果的である。

例えば、アメリカの安全コンサルティング・認証企業のアンダーライター・ラボラトリーズは、 同社の顧客の大部分を占める、グローバルなエンジニアリング企業をさらに理解するため、 エスノグラフィー調査を行った。調査から、ウェブサイトの内容と概念構造を単純化する需要があることがわかった。最終的に同社は、広く訴求力があり、世界中のエンジニアにとって使いやすいウェブサイトによる、新たなビジネス機会を見出した。

顧客の満たされていない需要がある限り、エスノグラフィーはビジネス改善のための重要な 役割を果たすことが出来る。

将来の展望

成功する戦略決断に導く価値のある調査結果を得ることは、すべての調査研究の目標である。

サーベイやフォーカスグループなど、従来の市場調査は、過去の決断や現在の意見に関する情報を集めるのには有効だが、将来の予測や目標の変更をする方法としては、最も効率的な手段ではないのかもしれない。

構造化され、定義された質問を管理された環境で調査員が質問する、従来の市場調査と違い、エスノグラフィー調査は、自然な状況に置かれた回答者の行動を観察することにより、調査結果を導き出す。柔軟で不安定な調査方法だが、調査員は複数の重要な情報を得ることができ、日常生活の中で回答者が、どのように特定の商品やサービスを使っているかといった全体像を描き出すことが出来る。

差別化やイノベーションが、今までになく高く評価される競争の激しい市場において、エスノグラフィーは、これまで誰も答えられなかった問いに対する答えを提示することができる。

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